2024.06.04
フランチャイズパッケージ
SV(スーパーバイザー)を投入しても、なかなか加盟店の業績が上がらない──。この悩みは、FC展開を始めた多くの企業で共通しています。支援の限界を超えたFC運営には、別の視点が必要です。
フランチャイズ(FC)展開を進める企業にとって、直営店と同等のサービス品質や業績を加盟店でも再現できるかどうかは極めて重要な課題です。しかし、多くの場合、加盟店は直営店舗ほどの成果をあげることができません。その背景には、加盟店側のリソース不足、ノウハウの非蓄積、運営に対する温度差などが存在します。
とりわけ、直営店では本部の直接指揮のもと、高い水準の教育や営業戦略が浸透している一方で、加盟店では独立経営であるがゆえにその統制が効きにくく、品質にばらつきが出てしまいます。FC展開をする企業の多くが、初期段階ではこの「品質格差」に直面します。
このような中で、加盟店の支援機能として「スーパーバイザー(SV)」の必要性が高まります。SVは、FC本部の意図を正しく伝え、店舗運営の現場改善や指導を通じて、加盟店の業績向上を後押しする役割を担います。つまり、SVは直営とFCの“差”を埋める存在として設計されるのです。
SV派遣の背景には、「加盟店に成功してもらいたい」「本部と加盟店は運命共同体である」という善意が存在します。実際、中堅企業のFC展開では、SVとして本部の優秀な社員や経営者自身が対応にあたるケースも少なくありません。本来であれば直営店の戦略や本部機能の整備に時間を充てるべき人材が、加盟店支援の現場に時間とエネルギーを注いでいるという構図です。
一見すれば熱意に満ちた好循環のように見えますが、ここには大きなリスクが潜んでいます。SV派遣には多くの時間がかかり、しかも高いスキルが求められます。1人のSVが対応できる加盟店数には限界があるため、SVが疲弊してしまったり、本部機能が手薄になったりといった副作用が発生します。さらに、本部が人材的にも資金的にも限られている中小企業にとって、SV機能を拡充することは容易ではありません。人件費としてのコストはもちろんのこと、教育・ノウハウの継承・組織設計など、持続的なSV体制を構築するためには多大な準備と計画が必要です。
こうした実態を踏まえると、SV派遣は善意や理念だけで回していけるものではないことがわかります。本部が“支援したくなる加盟店”ばかりではないからこそ、SVの存在意義と運用体制を冷静に見直す必要があるのです。
SVによる支援は、加盟店の業績改善に一定の効果をもたらすものの、それを持続的に実行するには多くのハードルが存在します。最大の課題は、人的資源と時間の制約です。SV一人が担当できる加盟店数には限りがあります。仮に1人で10店舗以上を回るような体制になれば、月2〜3回の訪問が限界となり、改善提案や現場指導の深度が浅くなりがちです。加えて、加盟店それぞれが抱える課題は千差万別であり、画一的な対応では成果が出ないケースも多く存在します。
また、SVには高度なマネジメントスキル、コミュニケーション能力、現場理解などが求められます。そのため、社内でも選ばれた人材を充てる必要があり、人材の確保・育成・継続という視点でも大きな負担が本部にのしかかります。そして、このSVという機能は、一般にロイヤルティの中に含まれない、あるいは明確に価格設定されていない場合が多く、SVの人件費が本部の持ち出しになる構造が見られます。中小規模のFC本部では、このコストが重くのしかかり、経営の持続性を脅かす要因にもなりかねません。
SVによる支援を主軸に据えた「SV依存型モデル」では、加盟店の成果はSVの個人能力に大きく左右される構造になります。つまり、SVの質が高ければ成果も出やすい一方、属人的な運営が常態化し、組織全体としてのFCノウハウや改善スキルが蓄積されにくくなるのです。また、SVが加盟店支援に傾注するあまり、直営店の経営や新たなビジネス機会への対応が後回しになるという本末転倒な状況が発生します。現場支援をすべてSV任せにしてしまうと、本部の業務設計やサービス提供プロセスの改善が進まず、FCモデル全体が停滞してしまうリスクも見逃せません。
結果として、本部は「成果が出ない加盟店を定期的にSVが訪問し続ける」という負のループに陥りやすくなります。SVの疲弊、加盟店の依存、FC本部の消耗という三重苦が生じる前に、構造的な転換を検討する必要があります。
FC展開を持続可能なものにするためには、SVの役割そのものを再設計することが重要です。第一に、本部は「人に頼らない支援モデル」への転換を図るべきです。マニュアルの高度化、業務システムの導入、Eラーニングなどによって、加盟店の自走力を高める仕組みを構築します。これにより、SVの訪問頻度を抑えつつ、一定の品質を維持することが可能になります。
第二に、SVが提供する支援内容を明確化し、それが本部のコストに見合うものであることを契約時点で加盟店と共有することが肝要です。場合によっては、SVの支援をロイヤルティ外とし、別途料金設定するなど、支援サービスと収益構造のバランスを取る工夫も求められます。
FC化の推進には“善意”と“理念”だけでは乗り越えられない経営の現実があります。SVという支援機能を戦略的に設計し直すことで、FC本部の負荷を抑えつつ、加盟店の成果を最大化する持続可能なFCモデルを実現していく必要があります。
SVの人力だけに頼った加盟店支援では、限界が早晩訪れます。そこで重要になるのが「仕組みによる育成」です。特に有効なのが、業務マニュアルや教育ツールの整備、システム化によるノウハウ伝達の効率化です。
例えば、店舗運営における標準業務フロー、接客マナー、販促キャンペーンの設計といった内容を詳細にマニュアル化し、誰が見ても同じ行動を再現できるようにします。さらに、動画マニュアルやEラーニングシステムを活用することで、加盟店スタッフの学習を支援することも可能です。
また、POSやCRMの導入により、顧客データや販売状況をリアルタイムで可視化することも、店舗改善の土台となります。SVがいなくても、加盟店自身がデータをもとに現状を把握し、自発的に改善行動を起こせる仕組みがあれば、SVへの依存度は着実に下がります。
SVの経験値や勘に頼る属人的な指導では、FC全体の品質が安定しません。よって、SVのノウハウを体系化・標準化し、だれでも同等レベルの支援ができるようにする取り組みが不可欠です。たとえば、SVが加盟店を訪問した際に行うチェックリストの統一、改善提案のテンプレート化、支援レポートの一元管理などが有効です。また、「SVトレーニングプログラム」を整備し、新任のSVが一定水準のスキルを身につけられる仕組みを用意することも重要です。
さらに、各SVの活動データや成果を蓄積・分析することで、どのような指導が効果的だったかをフィードバックし、改善を続けることで、SV組織そのものの成熟が進みます。こうしてSV機能の「見える化」「平準化」を行うことが、組織としての強さを生み出す土台となるのです。
SVの支援コストは無償であるべきか、それとも有償サービスとして再設計すべきか──この問いはFCモデルの持続可能性を左右します。まず、SVの活動内容を「基本支援(全加盟店共通)」「追加支援(個別課題対応)」の2段階に切り分け、前者はロイヤルティに含め、後者はオプションサービスとして位置付けることが有効です。これにより、加盟店は自らの課題に応じて支援を選択し、適正なコストを支払う形がつくれます。
また、そもそもロイヤルティにSV支援が含まれている場合も、どの範囲までが対象かを明確にし、期待値の調整を行うことが肝要です。たとえば、「月2回までの訪問支援」「緊急時は有料対応」などのルールを設け、FC本部・加盟店双方が納得できる契約設計にしておくべきです。
SVの人的資源は限られています。全加盟店に対して無制限に時間と労力を割り続けることは現実的ではありません。だからこそ、支援の価値を明確に定義し、見合う対価を得る仕組みを導入することが、FC経営の健全性を保つ鍵になるのです。