2025.05.24
プロフェッショナルマインド
「うちは問題はありませんよ」
現場でこうした声を耳にすることがあります。しかし、この言葉の裏に潜むリスクを理解している人は意外と少ないかもしれません。
本当に「問題がない」という状態は、健全なのでしょうか。実は、組織が変革を続けていくためには、良質な「問題」をあえて生み出すことが重要です。
本記事では、問題構造学の考え方をもとに、組織にとって価値ある「問題」を生み出す2つの視点についてご紹介します。
「問題」と聞くと、トラブルや課題といったネガティブなイメージを抱く方も多いでしょう。しかし、問題構造学における「問題」とは、単なる不具合ではありません。それは、「あるべき姿」と「現状」との間にあるギャップのこと。つまり、目指す理想像が明確であればあるほど、今の状態との差分が浮かび上がり、「問題」として可視化されます。
裏を返せば、「問題がない」という状態は、「あるべき姿」を設定できていない、あるいは現状維持で満足してしまっている状態とも言えます。
現場で「問題はありません」と話す人は、現状に満足していることが多いものです。しかし、それは決して健全な状態とは言い切れません。コンサルティングの現場で企業から最も期待されるのは、「次のあるべき姿の提示」、または「それを一緒に描いていくこと」です。
前者は、「答えを求めている状態」、後者は「問いを一緒に考えてほしい状態」です。特に後者は難易度が高く、組織としても個人としてもチャレンジングな局面になりますが、だからこそ変革のチャンスが眠っています。高い理想を描くことで生まれるギャップが、「良質な問題」として組織に新たな問いと気づきをもたらします。
もう一つの良質な「問題」は、異なる目的同士がぶつかったときに発生します。
たとえば、会社が掲げる理念や中長期ビジョンと、社員一人ひとりの価値観やキャリア観がかみ合っていない場合、それは「目的の衝突」として表面化します。このとき、会社の方向性をぼかしてしまえば、ギャップは見えにくくなるかもしれません。しかし、方向性が曖昧な組織は、力強い推進力を持つことができません。
大切なのは、会社の方針を明確に打ち出し、社員と丁寧に対話を重ねること。事業のスピード感、優先順位、人材の期待役割——そういった「ズレ」と向き合う過程で、「目的の衝突」という問題が生まれます。この問題をどう乗り越えるかが、組織風土を形成し、強い組織を育てる要になります。
今回紹介した2つの視点を整理しましょう。
どちらの問題も、単なる障害ではなく、組織が変わるための起点です。そしてこれらの問題は、外部から与えられるのではなく、意識的に生み出すことができます。
問題に直面することを恐れるのではなく、問題を歓迎し、自ら問いを立てる力こそが、変革を推進するリーダーシップにつながります。
「問題がない」状態に安心するのではなく、「良質な問題をつくる」意識を持つことが、次の変革の第一歩になります。あなたの現場では、どのような「問い」を立てていけるでしょうか。