2025.05.30
プロフェッショナルマインド
変化が常態化する中、組織に求められるのは「管理」だけではなく「変革」を担う力です。本稿では、リーダーシップとマネジメントの本質的違いと、その融合が生む組織成果最大化の鍵を探ります。
「リーダーシップとマネジメントはどう違うのか?」という問いは、組織論の中でも古くから議論されてきたテーマです。従来、マネジメントは「役職に基づく遂行力」、リーダーシップは「役職に関係なく組織を前進させる力」と整理されてきました。しかし、市場や働き方の変化が進む中で、その境界は次第に曖昧になり、今では「マネージャーにもリーダーシップが求められる時代」へと移行しています。
マネジメントとは、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を活用して、組織の成果を効率的に最大化することを指します。計画・統制・実行というフレームに沿って、主に「現状維持」や「業務最適化」を目指すスタンスです。役職や組織構造に基づいた指揮系統のもとで遂行されることが一般的です。
一方、リーダーシップは、役職や立場を問わずに発揮される「変革のための推進力」です。組織の既成概念や慣習にとらわれず、新たな方向性を示し、周囲を巻き込みながら変化を促していく力です。リーダーシップは「肩書きの有無」に依存せず、「組織を動かす情熱と行動」が問われます。
このように、マネジメントは「管理」、リーダーシップは「変革」を本質とする機能であり、どちらが優れているかという話ではなく、どちらも組織にとって不可欠な役割であるといえます。
かつての日本企業は、成長を前提とした経済環境にありました。市場の拡大が続く中、既存事業の効率性を高めることが成果に直結していたため、マネジメント機能が重視されてきました。そこでは「改善」「PDCAの徹底」「標準化」が成功の鍵であり、リーダーシップ的な行動は必ずしも必要とされませんでした。
しかし現在は、国内市場の縮小、テクノロジー変化の加速、労働力の多様化などにより、「現状維持」では成果が上がらない環境となっています。前例のない課題が次々と現れる今、マネージャーは既存の仕組みを守るだけでなく、「変革を先導する存在」であることが求められるようになりました。
つまり、マネジメント機能の中に、自然とリーダーシップの要素が求められる構造へと進化してきているのです。これは単なる業務範囲の拡張ではなく、マネージャーの本質的な役割変化を意味します。
従来のマネジメントは、「既知の問題に対する最適解を出す」ことを前提としていました。ところが、現在の組織課題は「未知の問題への対応」にシフトしています。たとえば、急速な業態変化への対応、Z世代社員の価値観の違い、グローバルサプライチェーンの不安定化など、過去の延長では通用しない課題が増えています。
このような時代においては、論理性や手順性といった従来型マネジメントのスキルに加え、「柔軟な思考」「共創による意思決定」「組織の心理的安全性の確保」など、リーダーシップ的資質が不可欠となります。マネージャーは「管理する人」から「導く人」へと変容を迫られているのです。
この変化を前向きに捉え、組織全体で共有することが、今後の企業成長における大きな鍵となります。
従来、リーダーシップは一部の「選ばれた人」に求められる資質とされてきました。しかし今、組織の中で成果を出し続けるには、一人ひとりが自律的に考え行動することが欠かせません。つまり、「リーダーシップは誰もが発揮するもの」という前提に組織が変化しつつあるのです。
「リーダーシップ」という言葉に対して、「ビジョンを描き、周囲を鼓舞し、先頭に立って引っ張る」というイメージを持たれることが多くあります。確かにそれも一つの形ですが、今日の多様な働き方や価値観の中では、それだけでは不十分です。
むしろ注目すべきは、「メンバー一人ひとりが自らの強みを活かし、チームや組織の成果に貢献する力」としてのリーダーシップです。これは必ずしもビジョン提示や統率力ではなく、与えられた役割を超えて、チーム全体の成果に対して責任感を持って行動することを意味します。
リーダーシップとは、組織の未来に向けて、個々人が「どう貢献するか」を自ら考え、行動に移す力なのです。
社員一人ひとりがリーダーシップを発揮できるようになるには、「自分の得意領域=強み」を起点とした支援が欠かせません。ここでは、組織におけるリーダーシップ発揮のスタイルを以下の4つに整理します。
大切なのは、これらのスタイルに優劣をつけることではなく、「自分はどのスタイルで力を発揮しやすいか」を理解することです。そして、組織としては多様なリーダーシップの形を受け入れ、それぞれの特性に応じた機会と役割を与える必要があります。
全社員がリーダーシップを発揮する時代において、上位者のリーダーシップのあり方も変化が求められます。かつては、強いカリスマ性で組織を統率する「支配型リーダーシップ」が主流でしたが、今注目されているのは「支援型=サーバント・リーダーシップ」です。
これは、リーダー自身が組織理念を体現しつつ、部下やメンバーの強みや主体性を最大限引き出すことを目的としたスタイルです。現場が自律的に動くことを最優先に考え、トップはあくまで支える存在としての役割を担います。
例えば、スターバックスが経営危機に直面した際には、「リーダーシップ会議」を通じて本社ではなく現場こそが会社の中核であるという考えが打ち出されました。こうした価値観の転換が、企業の持続的な変革を支えています。
ドラッカーは「真のマネジメントとは、一人ひとりの強みを引き出し、それを組織成果に結びつけることだ」と述べました。この考え方は、まさに全員がリーダーシップを発揮する時代における本質を突いています。
メンバーの価値観や行動傾向は一人ひとり異なります。それぞれがどんなこだわりや情熱を持ち、どこで力を発揮するのか。その「リーダーシップの源泉」に気づき、組織としてサポートすることで、結果的に全体の力が引き出されます。
これからの組織に必要なのは、「一部のリーダーに依存する構造」ではなく、「全員でリーダーシップを担う文化」です。メンバーの強みと主体性をベースとした組織づくりこそが、変化の激しい時代における最も堅実で力強い経営戦略と言えるでしょう。