2025.06.04
経営戦略・組織戦略
次の成長フェーズを見据えていますか?全社を動かす羅針盤として経営企画本部を立ち上げを検討すべきタイミングかもしれません。以下の内容では、経営企画本部を立ち上げる際のポイントを整理しました。
企業は創業期、成長期、成熟期とフェーズごとに抱える課題や必要な経営機能が変化します。創業期は「まず売上を立てる」ことが最優先でしたが、売上規模が拡大し社員数が100名を超える成長期には、事業部門への依存を脱し、経営全体を俯瞰できる部門が不可欠になります。いわゆる“経営企画”の役割が浮上するのはまさにこのタイミングです。
成長期の組織では、複数事業の同時展開、リソース配分、採用・育成、そして予算管理や中期計画の策定・進捗管理など、「部分最適」ではなく「全体最適」を検討するための窓口が必要になります。データや数字を集めて「現在どこに課題があるのか」を見える化し、経営トップが意思決定を迅速かつ的確に行えるようサポートすることが、経営企画本部の根幹です。
創業間もない頃は、社長や創業メンバーが事業計画や予算管理を兼務していた企業も多いでしょう。しかし社員数が増え、複数の業務改革プロジェクトや新規事業検討、新たな資金調達(銀行対応・上場準備など)が発生すると、経営トップはもはや自身だけではすべての意思決定を見通せなくなります。
そこで「社長直下の事務局的ポジション」から「独立した経営企画本部」への移行が求められます。組織構造として独立させることで、予算編成・中期計画の見える化、全社KPI管理、戦略案件のプロジェクト化など、トップの意思決定支援以外にも、新規事業の選定や部門間調整といった複数業務を並行して進める機能を担うことが可能になります。
特に上場を視野に入れる場合や、企業規模が数百名を超える段階では、経営企画本部を単なる“数字集計部門”にとどめず、「経営の羅針盤」として積極的に社内の意思統一を図る戦略部門へと進化させる必要があります。これにより、全社最適の視点でリソース配分を検討し、現場の業務改善やDX推進、組織・人員配置の最適化を推進していくことができるのです。
経営企画本部の中心的な役割は、中期経営計画(中計)の策定と、その進捗を「見える化」して管理することです。単年度の予算編成と異なり、中計では3~5年先を見据えた経営ビジョンや施策を策定します。具体的には全社の市場環境や競合動向を分析し、コア事業の成長シナリオや新規事業候補を組み込んだロードマップを描いていきます。
策定後は、毎月・四半期ごとにKPIや予実差異を集計し、経営層にレポートします。それにより経営トップは、どの事業が計画から乖離しているのか、何がボトルネックになっているのかを迅速に把握できます。経営企画本部は数値を単に報告するだけでなく、原因分析を行い、修正策や次の打ち手を提言する役割も担います。“見える化”とは単なる情報提供ではなく、「次に何をするべきか」を示す意思決定の補助装置として機能させることが肝要です。
経営企画本部は現行事業の推進だけでなく、中長期的な成長の種を探る役割も果たします。その一環として、新規事業の企画・評価、既存事業のポートフォリオ見直しなどを担当します。市場調査や顧客インタビューを通じて、成長余地のある領域を洗い出し、投資すべきビジネスを経営トップに提案します。
また、社長特命プロジェクトやM&A、アライアンス検討など、通常業務とは別軸で進行する重要テーマも経営企画本部が社内リソースを取りまとめて推進します。これらは単なる部門横断的なタスクではなく、トップの意志を具体化するためのエンジンです。経営企画本部はプロジェクトマネジメントの手法を用いて、要件定義から成果検証まで一貫してサポートし、早期に意思決定と実行のサイクルを回すことが求められます。
「何をやるか」が決まったら、「どう進捗を追い、どう改善するか」を設計する必要があります。経営企画本部は全社共通のKPIを設定し、部門別・事業別にブレークダウンしたうえで、適切なモニタリング体制を構築します。KPIダッシュボードやBIツールを活用してリアルタイムに状況を可視化し、課題発生時には即座にアクションプランを提示できる仕組みを整えます。
さらに、各部門がPDCAを回しやすいように、定期的なレビュー会議の場を設けます。経営企画本部はそこで各部門の進捗をファシリテートし、課題を抽出、優先順位づけを行い、経営層への報告・意思決定につなげます。これにより、組織全体が同じ目標に向かって動く“マネジメントサイクル”を確立し、抜本的な改善を継続的に実現できるようになります。
経営企画本部は戦略策定だけでなく、現場の業務改善や業務プロセス改革(BPR: Business Process Reengineering)にも深く関与します。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指す企業では、経営企画本部がITマネジメントや基幹システム導入をリードするケースも増えています。
具体的には、各部門の業務プロセスを洗い出し、業務フローを可視化。非効率な業務や重複作業を特定して自動化・デジタル化を提案します。その上で、社内ユーザーと連携しながらノーコードツールやRPAを活用して実装し、標準化を図ります。経営企画本部は“業務の見える化”から“仕組み化”までを一貫して担い、効率化によるコスト削減と品質向上を実現します。
経営企画本部は組織戦略や人員配置の最適化にも深く関わります。中期計画に沿った組織体制のあり方を検討し、必要な人材要件を定義。人事部門と協調して採用・育成プランを立案し、中長期的な組織強化を図ります。
また、企業の成長段階に応じた資金調達計画の策定も重要です。銀行借入や社債発行、ベンチャーキャピタルとの協業など、複数の選択肢の中から最適な資金調達手段を検討・実行します。上場準備を視野に入れた場合、内部統制や業務フローの整備を進めるほか、ステークホルダーへの情報開示体制を構築するための資料作成や投資家対応も担います。
経営企画本部を立ち上げた際、多くの企業でまず陥りやすいのが「事務局化」です。策定された中期経営計画の事務局として、予算編成や進捗レポートの集計・配信業務ばかりを担い、肝心の戦略立案や新規事業検討が後回しになってしまう。これでは元も子もありません。
同時に、経営企画本部に業務が集中することで「ボトルネック化」も起こり得ます。予算管理やKPI集計、各部門へのヒアリングなど、定型業務が新規テーマ推進のリソースを奪い、結果的に意思決定のスピードが鈍化してしまうのです。
これらを防ぐには、まず業務の棚卸しと役割分担が必須です。経営企画本部内部で、「戦略的思考が必要なコア業務」と「ルーティン化できる定型業務」を明確に分け、後者は可能な範囲で現場や管理部門へ移譲する体制を整えます。たとえば、
これにより、経営企画本部は「経営トップへの提言」「意思決定支援」「新規テーマ検討」といった戦略的業務にリソースを集中できるようになります。さらに、ボトルネック化を防ぐために「業務フローの可視化」「定期的な見直し」「外部リソース活用」の仕組みづくりを進めます。
具体的には、全社的に使用する経営指標や進捗データをクラウドBIツールで一元管理し、自動化できるレポートは自動化。人的リソースが必要な部分だけアシスタントやアルバイトを含めたチームで担う体制を構築します。また、「どの業務がいつ、誰の手を経てどこでボトルネック化しているか」を月次でレビューし、定量的な作業時間や処理時間をモニタリングしていく。こうした仕組みを持つことで、経営企画本部は戦略にリソースを最大限配分し続けることが可能となります。
経営企画本部が部門横断の役割を担うには、「現場理解」が不可欠です。しかし実態としては、事務処理能力や数字に強いだけの人材がアサインされ、現場部門とのコミュニケーションが希薄になりがちです。その結果、現場の実態に即さない提案やミスマッチした施策に終始し、最終的に調整役に留まってしまうことも少なくありません。
このような事態を回避するためには、まず経営企画本部メンバーに「現場出身者」を含めることが重要です。具体的には、営業部門・開発部門・製造部門などから各1名ずつをローテーションでアサインし、半年〜1年程度のサイクルで「現場 ↔ 経営企画」を入れ替えながら業務を体験します。これにより、現場の業務フローや課題感、担当者のモチベーションといった生の情報が経営企画本部に蓄積され、より実効性の高い提案が可能になります。
さらに、「現場との定期接点」を仕組み化することも効果的です。たとえば、
これらの取り組みにより、経営企画本部は「調整役」に留まるのではなく、現場と経営の距離を短くしながら一緒に成果を創出する存在となります。加えて、現場へのヒアリング結果や改善要望をナレッジベースに蓄積し、社内共通の情報資産として活用することで、次フェーズの組織戦略やプロジェクト立案に活かすことができます。
経営企画本部には、「仮説設定力」「データ分析力」「プロジェクト推進力」「現場調整力」など、多岐にわたるスキルセットが求められます。しかし中堅中小企業では、こうした複合的なスキルをもつ人材を社内だけでそろえるのは非常に困難です。結果として、優秀な人材が見つからず、経営企画本部は機能不全に陥る危険があります。
そこで、外部リソースを積極活用する戦略が重要になります。具体的には、
これらの外部リソースを活用しながら、経営企画本部は「コア業務」にのみリソースを集中させることが可能です。ただし、外部を活用する際は、「依存化しない仕組み」を同時に構築することがポイントとなります。たとえば、
このように「外部からノウハウを取り込みつつ、自社で内製化可能な部分は段階的に引き取る」ことで、経営企画本部は長期的に安定した機能を維持することができます。第三者の視点を活用しながら、自社の組織文化や課題感にフィットした仕組みを作り込むことが最終的なゴールです。
経営企画本部を組成したら、最初に手をつけるべきは「現状把握」と「課題抽出」です。具体的には、以下の流れで進めます。
このプロセスを通じて、「何が本質的なボトルネックか」を組織全体で共通認識化し、それを解消するためのリソースをどこに配分するかを明らかにします。初期段階での優先順位付けが曖昧だと、その後のプロジェクト化や実行計画がブレてしまうため、最初に時間をかけて丁寧に行うことが重要です。
優先課題が決まったら、次に「プロジェクト化」を行います。経営企画本部内に以下のようなステップを設けると効率的です。
このフローを回し続けることで、経営企画本部は単独での立案機能にとどまらず、現場と一体となった「実行支援機能」へと進化します。現場との距離が縮まることで、経営企画が提案した戦略が早期に実成果として顕在化し、次フェーズのプロジェクトにスムーズに引き継がれていきます。
最後に、経営企画本部の実践フローをより強くするために、IT戦略とマネジメントサイクルの融合を図ります。以下のポイントを押さえましょう。
これらのIT活用により、マネジメントサイクルの精度とスピードが飛躍的に向上します。定量的・定性的な情報が一元化されることで、経営企画本部は「意思決定のバックボーン」として機能し、経営トップ・事業部門と一体になって迅速にアクションを起こせるようになります。結果として、企業は変化に強く、かつ持続的成長につながる経営体制を手にすることが可能となります。
経営企画本部のメンバーには、社内のさまざまなステークホルダーを巻き込みながらプロジェクトを推進する巻き取り力・リーダーシップが不可欠です。具体的には、
こうした巻き取り力は、経営企画が単なる“数字管理部門”に留まらず、組織全体を動かすエンジンとなるための基本スキルです。さらに、プロジェクトマネジメント力として以下の能力を磨くことが重要です。
経営企画本部が実効性のある提案を行うためには、現場理解力が欠かせません。数字だけでは見えない「現場のリアル」をつかむために、以下の取り組みを推進します。
これらを行うことで、経営企画は“数字に裏打ちされた現場課題”を抽出し、高精度な施策提案が可能になります。加えて、その提案を長期的に成果に結びつけるためには、標準化・仕組み化力が必要です。ポイントは以下のとおりです。
現場理解と仕組み化を同時に進めることで、経営企画本部は「トップダウンだけでなくボトムアップの改善をも促進する役割」を果たせます。最終的には、各部門に落とし込まれた標準化フローが自走し、経営企画が関与しなくても持続的に改善が回る体制が理想です。
経営企画本部は社内外の多岐にわたる関係者と連携を図るポジションにあるため、コミュニケーション力は必須スキルです。具体的な要素は以下のとおりです。
また、経営企画本部が「ボトルネック回避力」を備えることも重要です。組織的に言えば、経営企画が突発的に発生する業務や部門間調整の複雑さに飲まれないよう、以下の意識を持ちましょう。
これらを意識しながらコミュニケーションとボトルネック回避を徹底すれば、経営企画本部は「現場と経営のハブ」として高い成果を継続的に生み出すことができます。
これまで、経営企画本部を組成する目的や求められる役割、立ち上げ時の注意点、実践フロー、必要スキルまでを解説してきました。一言で言えば、経営企画本部とは社内の「羅針盤」として機能し、企業全体を正しい方向へ導く存在です。
まず、企業成長期においては、事業部門がそれぞれ独自に動くことで部分最適に陥りがちです。経営企画本部は、「全社最適」を実現するための視座を提供し、中期経営計画の策定を通じて未来の方向性を示します。策定後はデータをリアルタイムに見える化し、定例レビューでプロジェクトの進捗を管理。必要に応じて軌道修正を提言することで、経営トップと現場が同じ目線で次の一手を打てるようにします。
また、新規事業やM&A、DX推進などの戦略的テーマでは、経営トップの想いを具体化するために部門横断のプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトマネジメント機能を発揮します。ここでは、巻き取り力や現場理解力を駆使し、社内外のリソースを統合して早期に成果を創出。成果を仕組み化し、現場に落とし込むことで、次のフェーズに向けた組織的成長を促します。
一方で、組成時には事務局化やボトルネック化、現場理解不足などのリスクが潜んでいます。これを回避するには、定型業務を可能な限り自動化・アウトソースし、戦略的意思決定を阻害しない体制を設計します。現場出身者をメンバーに加えることで実情を把握しやすくし、外部コンサルや派遣要員を活用して専門スキルを補完することで、人員不足をカバーすることが重要です。
こうした取り組みを通じて、経営企画本部は単なる数字集計部門ではなく、経営陣と現場をつなぐ「ハブ」として機能します。BIツールやプロジェクト管理ツール、RPAといったITインフラと組み合わせたマネジメントサイクルを構築すれば、データに基づく迅速な意思決定が可能になり、変化の激しいビジネス環境でも組織全体が俊敏に動けるようになります。
最後に、経営企画本部は継続的な学習と改善を繰り返す組織でなければなりません。定期的に業務フローやKPIを見直し、現場からのフィードバックを取り込みながらナレッジを蓄積します。これにより、経営企画本部は気づきを生む「問いの起点」として、組織を持続的に強化する存在となります。
経営企画本部が真正面から「羅針盤」として機能するとき、企業は単なる行き当たりばったりの運営から脱却し、明確な戦略と意思決定に基づく成長サイクルを回せるようになります。これから組成を検討する企業は、ぜひ本稿で述べたポイントを参考に、経営企画本部が持つべき機能と体制を自社の文脈で再構築し、未来を描く力を手に入れてください。